6月の花嫁

朝目覚めた段階で、すでにこれが現実かどうか疑わしかった。
(それはいまだ現在進行形で続いているのだけれども)

今日一日で俺の頬はなくなってしまうんじゃないかというくらい何度も頬をつねってみたが確かにそこには痛みが伴う。
赤い頬をさらしながら今ここに立っていることも信じられないくらいで、両脇で俺様を見守るおなじみのメンバーに“どっきりです”と看板を出されても思わず納得してしまいそうな塩梅だった。

白いスーツがなんだか苦しくて思わず襟元を緩める。今にも泣き出しそうに(もう既に泣いてたかも)鼻をかんでいる旦那のそばで、慶次と伊達がにやにや笑う。

丁度伊達と目があったその時、今まで流れていた音楽がとまった。
俺様を含めそこにいたもの全員が息をのむのが肌で感じられる。
自然と入口の方へ体を傾けたのを合図にして、まさにイメージ通りの音楽――いわゆる結婚行進曲とかいうあれだ――が流れ、その音楽とともに荊を模ったアーチから上杉謙信の腕をとり、本日の主役は厳かに入ってきた。

ひゅうとかキレイとか両脇がざわつくのを他所に、二人は真っ直ぐにこちらを見据えている。
俺様の心ここにあらずといった表情に気が付いているのか、上杉謙信は苦笑した。
ベールにつつまれた彼女へ何かを耳打ちをすると、二人同時にこちらへ向かって歩き出す。
だんだん近づいてくる二人のどこを見ていいのかわからなくて、俺様の視線は宙を泳いだ。

とうとう二人が目前に迫ったとき、上杉謙信は穏やかな表情で“たのみますよ”と微笑する。
ささやくように言ってから丁寧に頭を下げた。こちらも一礼を返し頭を上げれば、いつの間にか彼女が俺の隣に立っている。
「ソレデハ、近いのキッスをお頼みモース」
カタコトの神父にベールを上げるように促された。
緊張した面持ちで、周りの視線を一心に浴びながら、いざ両手を肩の高さまで上げる。
ベールからうっすら透けて見える彼女の表情はわかりにくい。
喜んでいるのか緊張しているのか、はたまた怒っているのか―――
何だか怒っていそうな気がするのは気のせいだろうか。
というかベールあげたら全然違う人だったり目が覚めたらどうしようと、ひやひやしながら手が触れるか触れないかの瀬戸際になって、彼女はぽつりとつぶやいた。

「…覚悟は出来ているんだろうな?」

初めてちょっと泣きそうになりながら、やっとのことで微笑むと、花嫁のベールに手をかけた。

Since 20080422 koibiyori